悪人(吉田修一)

ふー。
読み終わった後に、このタイトルが重く深く圧し掛かってくるよう。もやもやとスッキリしない気持ちを持て余してしまいます。

福岡、佐賀、長崎を舞台に、殺人事件の被害者と加害者。そして、その二人を取り巻く家族や友人。様々な関係者達の気持ちの有り様が、まざまざと描かれていました。殺人事件の全容を描きながら、恋愛、それも純愛小説のようでもありました。

舞台が九州北部ということで、地名や交わされる会話の方言が馴染み深いもので、それが一層、この物語に惹きつけられた一因かもしれません。様々な関係者が語られるにつれて、どんどんこのお話にのめり込んでいって、もう目が離せないというか、途中で止めることなんて出来なくなってしまって・・・。結構、厚い本だったんですけど、なんだか一気読みのように読んでしまいました。圧倒されたというか、引きずり込まれたというか。

たしかに、殺人はいけないことで、何があろうとも許されるべきではないとは思っていますが、どうしても祐一を責める気になれないんです。計画的ではなく、弾みのようなものだった、というのもあるのかもしれませんが。光代の気持ちもすごく分かってしまう自分がいて、共感みたいなものを感じてしまいます。特に、最後の祐一の行動は胸に迫るものがあって、光代に「どうか彼の本心を分かってあげて・・・」と願わずにはいられません。最後の光代の問いかけを読みながら、ついつい涙腺が緩んでしまったりもしました。

でも、これが被害者家族の記述を読み出すと、その気持ちに堪らなくなってしまって、「やはり許されるべきではない」という気持ちにもなってしまいます。矛盾してしまう自分の気持ちを何処にどう着地させるか、こうやって感想を綴っている今でも迷ってしまっています。

それにしても、増尾には何の罰も下されないというのも納得できないというか、ね。はっきりいって、こうなったのは彼の行動が影響を及ぼしている訳で、私に言わせれば、祐一も増尾の被害者って気分なんですけどね。たしかに殺人を犯したのは祐一かもしれないけど、増尾には何の責任もないってことにはならないんじゃないか、と思ってしまいます。なんで無罪放免されて、のうのうと得意げに回りの人間に体験を語っていられるのか。それが許される社会なのか・・・。そして、被害者の行動にだって、何ら非難されることはない、とは言い難いのではないのかな、と思っている私がいます。

そういう意味でも、この「悪人」というタイトルが重いです。考えれば考えるほど分からなくなってきて、このタイトルが私の上に圧し掛かってくるようです。

もうすぐ「裁判員制度」が始まります。いくら厭だと言っても、自分が裁判員に選ばれるかもしれない、誰かを裁かなくてはならない、という事実が目の前にあります。もし、こういう事件を担当することになったとして、私は冷静に情を挟むことなく判断を下せるのか・・・全く、自信がありません。ってか、出来ないよ。本当にさぁ・・・。何が真実かなんて、本当に分かっているのはその加害者本人だけなんだし。何を信じてどう判断するのか、自分がきちんと取捨選択できるのかと考えると、怖いですね。本当に怖いよ。


悪人

この記事へのコメント

2008年02月03日 23:40
読み応えがありましたね。いったい誰が悪人なのか?わからなくなるような、重い、考えさせられる作品でした。
「裁判員制度」については、あくまで参考ですが、昔のアメリカ?映画で「十二人の怒れる男」っていうのが陪審員のドラマで面白かったです。で、そのパロディで日本映画で「12人の優しい日本人」っていうのもあって、これはコメディタッチで笑えました。実際は別物でしょうが、ご参考まで。後から来る方にも、たぶんためになるページ?(笑)。
すずな@主
2008年02月04日 11:36
>藍色さん
思ってた以上に、読み応えのある作品でした。いろいろと考えさせられるものがありましたね。
「十二人の怒れる男」って、なんだか聞いたことがあるタイトルです。恥ずかしながら観てないんですが。日本映画の方も・・・^^;今度、探してみますね。
2008年02月04日 20:46
加害者側のことも被害者側のことも、どちらもよく分かって、それぞれに感情移入をして、いろいろと考えさせられましたね~。
私が裁判員にもし選ばれたら、どんな結論を出すんだろう。その責任の重さを考えると、本当に怖くなってしまいますね。こんなこと考えちゃいけないんだろうけど、選ばれないと良いなぁ~と逃げ出したい気持ちにもなっちゃいます。
「12人の~」には、日本版のパロディもあるんですね。知らなかった!
2008年02月04日 22:14
納得できない!
というのが本音でした。
実際の事件も同じようなことが多いんでしょうね。
結果は結果でしかないけど、その原因とか経緯の影響はどうなんでしょう。
もちろん、本との違いは「死人に口なし」ですけど。
「裁判員制度」、どうしても感情移入してしまいそうです。
すずな@主
2008年02月05日 10:35
>エビノートさん
どの立場の人も同じような比重で描かれていて、どっちの気持ちも分かるし、でもだからといって・・・と、いろんな感情が沸き起こってくる作品でした。いろいろと考えさせられましたね。
私も内心、「裁判員には選ばれないと良いな・・・」と思っています。そう、思ってしまいますよね;;;

>じゅずじさん
本音を言えば、やっぱり私も同じです。考えれば考えるだけ、もやもやとしてしまいますね。
現実でもこういうことがあるのかな、と思うと余計に・・・。
2009年06月16日 16:02
こんにちは。ようやく読んだ一冊です。
ずっしりとした重みは、ページ数ではなくて中身の由縁で、知人が貸し渋ったのも、読後に私が落ち込むんじゃないかと心配してのことでした。
落ち込むというより、考えさせられました。どの立場にも感情移入させる巧みな筆遣いで、自分の正義を問いかけられた気がします。
すずな
2009年06月20日 06:50
>香桑さん
うん。考えさせられるお話だったよね。私の正義はどこにあるのか・・・。いろんな立場の人のことを思うとコレと決断できないのです。難しい。裁判員制度について見聞きする度に、この小説を思い出しては思い悩んでしまっています。。。

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